高齢者の食が細くなる、本当の理由
2026年1月27日
最近、あまり、食べられない、食が細くなった.と口にする高齢者は少なくないと思います。
年齢を重ねれば誰もが食欲が落ちていくものだと考えがちですが、実は、単なる老化現象では片付けられない要因があります。
医学的な変化、心理的な側面、社会的環境が重なり合って、食欲を削いでいくのです。
本コラムでは、唾液分泌の低下と味覚の鈍化にフォーカスして、国内外の研究成果を基に、高齢者の、食が細くなる、本当の理由を探っていきます。
そして、咀嚼力を高めて、唾液と免疫を以前のように取り戻すためのトータルヘルスケアの可能性についても考察していきます。
唾液が減ると味覚はどのように変わる?

食欲を大きく左右するのは、味、になります。
実は、舌の味蕾が味を感じるには、唾液が食品の分子を溶かして、受容体に届ける役割を果たします。唾液が減れば、食べ物の風味は薄まって、何を食べてもおいしくない、味がしない、という感覚に陥るのです。
東京大学医学部の研究グループは、高齢者では唾液分泌量の低下と味覚障害との間に相関関係があることを報告しており、口が渇く、ドライマウスが味覚の質を左右することを実証しています(Tokyo Univ., Dept. of Geriatrics, 2017)。
さらに、ハーバード大学公衆衛生大学院の論文では、年を重ねることによる唾液腺機能の低下が、食欲減退と栄養不足のリスクを高める重要な要因であるとまとめられています(Harvard School of Public Health, 2019)。
つまり、唾液の減少は単なる、口の渇き、だけでなく、高齢者の食行動そのものを揺るがす大きな要因といえるのです。
味覚、嗅覚の衰えおいしさの喪失

味覚の低下だけでなく、嗅覚も年齢とともに衰えてきます。
九州大学の疫学研究では、65歳以上の高齢者の約40%が嗅覚の低下を自覚していると報告さました。(Kyushu Univ., 2015)
香りが薄くなったり、感じなくなれば、食欲をかき立てる実感が薄れてしまいます。結果として美味しく感じられないことから、食べたい、という気持ちがおきずに減退し、少量で食事を終えてしまうことになります。
それだけではなく、唾液の減少により、咀嚼時の潤滑が失われて、食事のたびに飲み込みにくい、とか、のどに引っかかる、という不快感が増してくるのです。このことが、さらに、食欲を削ぐマイナスのスパイラルにつながるのです。
奥歯の粉砕力と唾液分泌

ものを粉砕する、咀嚼は唾液を引き出す最も自然な刺激になります。奥歯でしっかりと食物を砕くと、耳下腺と顎下腺が活発に働いて、唾液が分泌されます。反対に、奥歯がないとか、入れ歯や、噛み合わせが合わないと、咀嚼の刺激は弱まって、唾液腺の活動も低下するわけです
スウェーデンのカロリンスカ研究所の臨床研究では、奥歯がない高齢者はものを粉砕する、咀嚼力が低下して、唾液分泌も顕著に減少することが確認されています(Karolinska Institute, 2016)。また、日本歯科大学の研究でも、咀嚼と免疫との深い関係が指摘されています。
免疫と食欲の関係

実は、唾液には、免疫を担う成分が豊富に含まれています。例えば、ラクトフェリンは、口の中や上気道で病原体の侵入を防ぐのです。ということは、唾液が減れば防御力が落ち、慢性的な炎症や感染リスクが高まります。つまり、免疫の低下は、食欲を減らす、方向に作用するかけです。
スタンフォード大学医学部の研究では、慢性的な炎症がある高齢者は、炎症がない人に比べて食欲が有意に低下していると報告されており、炎症と食欲減退の因果関係が示されています(Stanford Univ., 2020)。
これらから、免疫と食欲は、一見無関係のように見えて、実は密接につながっているといえるのです。
トータルヘルスケアプログラム

これからは、口腔機能を含めた全身的なアプローチが大切になります。
トータルヘルスケアプログラムでは、奥歯の粉砕力を回復させる咀嚼最大化や歯科的介入、免疫を整える生活習慣の指摘、が行われます。奥歯の力が戻れば唾液分泌は自然と増して、免疫力が高まって、若い時のように、食べ物本来の味を感じられるようになるのです。
実際に米国UCLAの研究では、高齢者に咀嚼力改善プログラムを導入した結果、唾液分泌量が増えて、食事量も改善したと報告しています(UCLA School of Dentistry, 2021)。このことは、咀嚼力と食欲回復が科学的に結びつけられた貴重な研究といえます。
まとめとして、
高齢者の、食が細くなる、理由は、唾液分泌の低下による味覚障害、奥歯がなくなることで引き起こされる咀嚼力の低下、嗅覚の衰え、免疫機能の低下、心理的・社会的要因が関係しています。
その中でも重要なのが、唾液と咀嚼になります。唾液が減れば味が分からなくなり、食事による幸福感が感じられなくなってしまいます。というのであれば、奥歯の粉砕力を取り戻して、免疫を高めて、唾液を再び呼び戻す特別な治療プログラムを行えば、食事がおいしく、楽しいものである、と感じられるようになるのです。
いかがでしたでしょうか?今日、お伝えしたことを覚えておいていただければ、幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。次回も、みなさんの健康に役立つお話しをお届けしたいと思います。
食が細くなることは老化の必然ではなく、体のサインです。そのサインを見逃さず、口腔機能と全身の健康を整えることこそが、人生の後半を豊かに彩る「食の楽しみ」を守る道なのです。
コラムは、ウエスト歯科クリニック、と、玉川中央歯科クリニック、の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Tokyo University Dept. of Geriatrics. Salivary secretion decline and taste impairment in elderly populations. J Gerontol Med Sci. 2017.
- Harvard School of Public Health. Oral health, salivary gland function, and nutritional status in older adults: A review. Public Health Rev. 2019.
- Kyushu University Epidemiology Center. Prevalence of olfactory impairment in community-dwelling elderly Japanese. J Epidemiol. 2015.
- Karolinska Institute. Masticatory performance, tooth loss, and salivary secretion in older adults. Gerodontology. 2016.
- Japan Dental University. Relationship between occlusal force, salivary immunoglobulin A, and systemic immunity. J Oral Rehabil. 2018.
- Stanford University School of Medicine. Chronic inflammation, cytokines, and appetite loss in aging. Am J Clin Nutr. 2020.
- UCLA School of Dentistry. Chewing training enhances salivary secretion and food intake in elderly patients: A randomized controlled trial. J Dent Res. 2021.




