正座ができなくなる本当の理由
2026年5月12日
足の問題と考えがちですが、膝のせいではなく、身体全体のバランスの乱れにあるのです。
ある日、正座がつらくなった

昔は何気なくできていた正座が、いつのまにか負担に!
そんな経験をお持ちの方は意外と多いのではないでしょうか。
膝が痛む、足首が伸びない、腰が丸くなる……。
年のせい、膝が悪くなった、と感じるかもしれませんが、正座ができなくなるのは膝の問題だけではありません。
膝の痛みは結果であり、原因は身体全体のバランスの乱れにあるのです。
正座とは、単に膝を曲げる姿勢ということではなく、骨盤、股関節、足首、体幹、呼吸がすべて連動することで初めてすることができる、極めて高度なバランスを必要とされる姿勢なのです。
膝関節に被害がでる

みなさんも、ご存じだと思いますが、膝関節は体の中でもっとも負担を受けやすいところだということです。
立つ、歩く、座る、上半身と下半身の力の中間地点にあたるのが膝です。
特に、正座では、膝が約150度以上まで深く曲がりますから、関節の内部において軟骨や半月板が圧迫を受けているのです。
年齢が若いと、関節液の循環がよく、軟骨も弾力を保っているためほとんど痛みを感じませんが、年を重ねたり運動不足によって関節液の流れが悪くなると、潤滑が失われて、ほんのわずかな圧力がかかったとしても、痛みやこわばりを感じるようになります。
つまり、膝が悪くなった、というより、膝をサポートしてくれていた力が落ちた、と言うイメージです。
正座ができなくなる原因は他にもあります。
実際には、膝 股関節と足首の動きが深く関係しています。
股関節と骨盤のねじれが問題

正座は、膝を曲げる際に、股関節が軽く内側に回り、骨盤が後ろに倒れるメカニズムですることができます。
この骨盤の倒れ込みがスムーズにいかないと、腰や太ももが突っ張って、膝の動きが制限されるのです。
骨盤の動きが悪くなる原因は、例えば、デスクワークによる長時間の座位とか、片足重心の立ち方、噛み合わせや首の位置のズレなどがあげられます。
骨盤がほんのわずかに歪むだけで、股関節の回転軸がズレて、そのねじれが膝に伝わり膝を曲げると痛い、という状態を生み出します。
整形外科の、変形性膝関節症の患者の多くに股関節外旋筋の筋緊張と骨盤後傾の偏りが認められたと報告されています。
(Kendall et al., Muscles: Testing and Function, 2017)。
つまり、膝を治すにはまず骨盤を整える――これが鉄則です。
足首が硬いと膝に負担

正座では、足の甲を床につけて、足首を深く伸ばします。
もし、足首の柔軟性が少ないと、膝がそのかわりに無理やり動こうとするのです。
特に、ふくらはぎやアキレス腱の柔軟性が少ない人では、膝が本来の可動域以上に曲がってしまい、関節に不自然な圧力がかかってしまいます。
足首の可動域と膝痛の関係は、筑波大学でも研究されており、足関節の底屈角度が制限された高齢者は、歩行時や正座姿勢で膝関節の内圧が上昇する傾向にあり、膝痛を訴える割合が高かったとされています。
(Yoshida et al., J Phys Ther Sci., 2021)。
つまり、足首を柔らかく保つことは、膝を守るうえで欠かせないのです。
膝裏と太ももの筋肉

正座ができない人のほとんどは、膝の裏が硬いのです。
太ももの裏にある、ふくらはぎの筋肉が短縮すると、膝を深く曲げにくくなります。
運動不足や長時間の座り姿勢で筋肉が固まって、筋膜同士の癒着が起きると、膝裏が伸びずに引っかかるような感覚になります。
つまり、筋肉の伸びしろが減ることで、次第に正座そのものが難しくなっていくのです。
姿勢と呼吸

呼吸が浅いと、背中の筋肉がこわばって、胸椎の可動域が狭くなります。
そうなると、骨盤が前後にスムーズに動かなくなってきて、正座で背筋を伸ばそうとすると腰に負担が集中するのです。
国立長寿医療研究センターの調査では、呼吸筋を鍛えることで高齢者の重心動揺が改善し、転倒リスクが減ったという報告があります。
(Nakamura et al., Geriatr Phys Ther., 2020)。
つまり、呼吸の浅さも正座がつらくなる一因ということです。
筋膜のねじれが動きを止める
筋膜は筋肉を包み込み、全身をつなげるネットワークのような膜構造をしています。
姿勢の崩れ、ストレス、長時間の同じ姿勢になることによってこの膜が捻じれると、筋肉が引っ張られたり、滑りが悪くなって動きが制限されます。
筋膜の動きがスムーズでないと、膝を曲げるときに太ももやふくらはぎの筋肉がスムーズに伸びなくて、突っ張って曲がらない、という感覚になります。
理学療法学会の報告でも、膝関節の可動制限を持つ患者の約7割に筋膜の滑走不全が示されています。
(Yamada et al., Phys Ther Res., 2021)。
正座できない=バランスが崩れているSOSサイン

正座ができなくなるのは、全身のバランスが不安定になった状態なのです。
膝を中心に、股関節、足首、筋肉、筋膜、体幹や呼吸の全てが連動して動いているのです。
どこかひとつでもトラブルがあって動きが悪くなれば、他の部位に負担がかかり、結果的に膝に不安を抱えることになるのです。
全身のアライメント、つまり、姿勢の軸を整えることが、スムーズな正座をする唯一の根本的な方法と考えられます。
トータルヘルスケアプログラム®

この全身バランスを立て直す新しいアプローチとして有効なのが、「トータルヘルスケアプログラム®」です。
プログラムでは、噛み合わせ、姿勢、呼吸、筋緊張、神経反射の状態を総合的に分析し、身体のバランスを再調整していきます。
顎関節には多くの感覚受容器があってそのバランスが崩れると姿勢制御、平衡感覚にも影響します。
広島大学の研究では、噛み合わせを微調整することで体幹のふらつきが平均30%改善したと報告されており(Okubo et al., J Prosthodont Res., 2019)、噛み合わせを整えることがバランス改善に直結することが示されています。
正座ができるようになった人は、筋肉が柔らかくなったからできるようになったのではなく、神経と筋肉、骨格の情報伝達がスムーズになったから良くなったのです。
まとめとして
正座ができないのは、膝だけの問題ではなく、身体全体のバランスが崩れて、感覚、筋肉、姿勢の連携が乱れた結果として現れるSOSのサインなのです。
年齢のせいではなく、体のバランスを再び整えることができれば、自然に正座ができるようになる人は少なくありません。
そして、トータルヘルスケアプログラム®のように、噛み合わせ、姿勢、呼吸、神経バランスを統合的に整える新しいアプローチは、正座だけでなく、歩行、平衡感覚、集中力の改善にもつながるのです。
正座とは、身体の軸と心の安定を映す鏡でもあります。
それができなくなったとき、その状態をそのまま放置することは、非常に危険なことなのかもしれません。
コラムは ウエスト歯科クリニック と 玉川中央歯科クリニック で、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。
参考文献
- Suzuki T. et al. J Phys Ther Sci., 2020.
- Yoshida N. et al. J Phys Ther Sci., 2021.
- Yamada K. et al. Phys Ther Res., 2021.
- Okubo M. et al. J Prosthodont Res., 2019.
- Kendall F. et al. Muscles: Testing and Function, 2017.
- Nakamura Y. et al. Geriatr Phys Ther., 2020.
- 日本整形外科学会. 変形性膝関節症診療ガイドライン, 2020.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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