歯科医の子どもは虫歯にならないのか?
2026年9月23日
歯科医の子どもは虫歯にならないのか?

歯科医の子どもは虫歯にならないのか?という問いは、直感的にはもちろんそうだろうと思うでしょう。
しかし、常識的に考えても、歯科医という肩書きそのものが、直接エナメル質を強くしたり、口腔内細菌を減らしたりするわけではありません。実際に影響するのは、親が持つ知識がどのように家庭内の具体的な行動へと落とし込まれているか、また、その積み重ねです。
テルアビブ大学の研究
このテーマに比較的近い研究として、イスラエルのテルアビブ大学による横断研究があります。
この研究では、小児歯科医の子どもと一般歯科医の子どもを対象に、食習慣、口腔清掃習慣、フッ化物の使用状況などを比較しました。結果は歯科医の子どもは虫歯ゼロという単純なものではありませんでしたが、小児歯科医家庭では予防志向の生活設計がより徹底されている傾向が示唆されました。
ここから見えてくるのは、専門的知識が日常の具体的な管理に反映されやすいという点になります。知識があることと、その知識が日々の選択に変換されていることは、似ているようでいて実は全く違います。つまり、その差が、時間の経過とともに少しずつ結果に表れてくるのです。
日本歯科大学の研究
日本歯科大学の研究では、歯科衛生士資格を持つ保護者と一般保護者を比較して、幼児の口腔保健行動との関連を検討しました。
仕上げ磨きの実施率そのものには大きな差は見られませんでしたが、フッ化物配合歯磨剤の濃度選択や使用量、定期受診の徹底といった運用の細部において差が生じる可能性がみられたようです。
虫歯予防は大切と理解していることと、年齢に応じた濃度をどう使うかまで具体的に管理していることの間には、確かな差があります。
その距離の差が、数年単位のう蝕発生率に影響していく可能性は否定できません。
愛媛大学の疫学研究
さらに愛媛大学の疫学研究では、三歳児のう蝕と親の学歴・職業・世帯収入との関連が分析され、教育水準や社会経済的地位が高いほど子どものう蝕が少ない傾向が報告されています。
これは単に経済力の問題というよりも、情報へのアクセス、受診行動の早さ、生活習慣の安定といった複合的な要因が関与していると考えられます。
歯科医家庭は平均的にこうした要素を備えている可能性が高く、そのことが統計的な差として表れやすいと推測されます。
海外研究(米国)
米国でも、ハーバード公衆衛生大学院やカリフォルニア大学ロサンゼルス校歯学部の研究において、親の教育水準や健康行動とう蝕罹患率の関連が報告されています。
特に母親の教育年数や予防歯科受診習慣は重要な予測因子とされています。ここでは知識が行動を変え、行動が習慣となり、習慣が長期的な疾患リスクを左右するという連鎖を示しています。
生物学的要因
ただ、どれだけ環境を整えても、生物学的要因が消えるわけではありません。エナメル質形成不全、唾液分泌量の個体差、口腔内細菌叢の違い、遺伝的背景などは家庭環境だけで完全に制御できるものではありません。
実際、歯科医の子どもであっても虫歯になるケースは存在します。予防意識が高い家庭であっても、ゼロリスクはあり得ないのです。
まとめ

総合すると、研究が示しているのは歯科医の子どもは必ず虫歯にならないという単純な図式ではなく、歯科医家庭は虫歯になりにくい生活設計を構築しやすい環境にある、というのが示されています。決定因子は職業名ではなく、糖摂取の頻度管理、フッ化物の適切利用、仕上げ磨きの質、定期受診、そして家庭内に形成される健康文化なのです。
つまり、結局のところ、虫歯を左右するのは肩書きではなく、日々の選択の積み重ねになります。
歯科医の子どもが虫歯になりにくいとすれば、それは歯科医だからではなく、虫歯になりにくい行動を自然に継続しやすい環境にあるからなのだと、これらの研究は示しているといえます。
コラムはウエスト歯科クリニックと玉川中央歯科クリニックで、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。
参考文献
- シュムエリ A ほか.小児歯科医と一般歯科医の子どもにおける口腔保健行動とう蝕経験の比較研究.テルアビブ大学
- 日本歯科大学研究グループ.歯科衛生士資格を持つ保護者の口腔保健行動と幼児のう蝕に関する研究
- 松山雄亮 ほか.親の社会経済的地位と幼児う蝕との関連.愛媛大学
- フィッシャー=オーエンス S ほか.子どもの口腔健康に影響する要因の概念モデル.ハーバード公衆衛生大学院
- ライジン S、プソター W.社会経済的地位および行動要因とう蝕リスクの関連.カリフォルニア大学ロサンゼルス校歯学部
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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