免疫の状態や全身コンディションを考慮した
全身炎症リスク低減クリーニング
― 歯周病菌管理を起点とした全身視点の歯周ケア ―
歯周病は、長年の間、歯や歯ぐきの局所的な病気として扱われてきました。しかし近年、歯周病は慢性的な炎症を伴う全身性のリスク因子の一つとして考えられてきているのです。とくに、歯周病菌が引き起こす慢性炎症が、免疫系や血管系に与える影響については、国内外の権威のある大学を中心に数多くの研究が報告されてきています。
まず、構造から解説します。歯周病が進行すると、歯と歯ぐきの境目に形成される歯周ポケットの内に歯周病菌が増殖してきます。そうすると、この部位では炎症が慢性化して、毛細血管が拡張・脆弱化するため、日常的な物を粉砕する咀嚼や歯磨きといった刺激によって、歯周病菌や歯周病菌の産生物が血流中に入り込むということが繰り返し起こり得るのです。これを菌血症といいます。
アメリカのハーバード大学やコロンビア大学の研究グループは、歯周病と心血管疾患との関連を疫学的に検討して、中等度から重度の歯周病を有する人では、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管のトラブルの発症リスクが高い傾向にあることを報告しています。ここで重要なのは、歯周病がこれら疾患の直接原因であると断定しているのではなく、慢性炎症を通じて発症自体を後押しするリスク因子の一つと位置づけられている点にあります。
イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンやキングス・カレッジ・ロンドンの研究では、歯周病患者を対象に、全身の炎症マーカー(C反応性タンパク、インターロイキン6など)が高値を示しやすいこと、また、歯周治療後には、これらの指標が低下する例が報告されているのです。これらの考察は、歯周病菌の管理が全身炎症負荷の軽減に寄与する可能性を強く示唆しているといえます。
さらに、注目されているのが、免疫系との関係になります。口腔は外界と体内をつなぐ重要な免疫の最前線にあり、唾液中に含まれる免疫グロブリンA(IgA)は、病原微生物の侵入を防ぐ重要な役割を担っています。大阪大学や東京医科歯科大学(現・東京科学大学)など国内の研究においても、口腔内環境が整うことで唾液中IgAの分泌動態が安定して、粘膜免疫のバランスに良い影響を与える可能性が示しています。
つまり、歯周病菌が多い状態では、免疫系は常に刺激を受け続け、結果として慢性的な炎症状態に傾きやすくなるわけです。その一方で、歯周病菌の負荷を適切にコントロールすることで、免疫系が過剰に消耗される状況を避けることができ、生体本来の防御機構が働きやすい環境を整えることができると考えられているのです。
こうした背景を踏まえ、当院では従来の「歯石取りを中心とした歯周管理」から一歩、さらにもう一歩進んだ、歯周病菌の管理そのものに焦点を当てた歯周ケアを整理・体系化しました。それを「全身炎症リスク低減クリーニング」と呼びます。
この当院オリジナルの特別なクリーニングは、歯周病菌による慢性炎症の負荷や負担を可能な限り低く保つことを目的とし、口腔内だけでなく、全身のコンディションを視野に入れた歯周管理型のケアとして位置づけています。具体的には、基本となる歯石除去を土台とし、その上で当院独自の方法で歯周病菌の絶対量を減少させることを目的とした、炎症リスクが高い部位を完全オーダーメイドの特別な方法で選択的・集中的に管理していきます。このことは炎症の起点となりやすい部位を精密に見極め、短時間で密度の高いケアを行う設計となっています。
アメリカのミシガン大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究では、歯周治療が血管内皮機能の改善と関連する可能性が示されています。つまり、これらは動脈硬化の進行抑制という観点からも注目されていることになります。こうした研究成果は、「歯周病菌を管理すること」が、結果として脳梗塞や心筋梗塞といった循環器疾患のリスク低減に寄与し得るという考え方を支持するものになります。
ただ、歯周ケアだけで脳梗塞や心筋梗塞を完全に予防できるわけではありません。口腔領域だけではなく、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、運動習慣など、多くの因子がこれらには複雑に関与しているのです。しかし、歯周病という慢性炎症の源を放置しないことは、全身の健康管理において非常に重要な意味を持つと考えられるのです。
まとめると、当院が提供する全身炎症リスク低減クリーニングは、歯周病菌を減らし、口腔内環境を整えることで、免疫グロブリンAを中心とした粘膜免疫の安定化を目指し、結果として全身の炎症負荷を抑えることを目的とした、全身視点の当院オリジナル歯周管理ケアなのです。
これは「治療効果を保証するもの」ではないのですが、「今あるリスクをできるだけ低く保つための管理」という位置付けとなりえるのです。
歯周病菌のコントロールを通じて、免疫の状態や全身コンディションを見直してみる。その積み重ねこそが、将来の健康を支える強固な土台になると、私は信じています。
参考・引用論文(抜粋)
- ハーバード大学 公衆衛生大学院
Periodontal Disease and Risk of Cardiovascular Disease - コロンビア大学 医学部
Periodontal Infection and Systemic Inflammation - ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン
Chronic Periodontitis and Inflammatory Markers - キングス・カレッジ・ロンドン 歯学部
Periodontal Therapy and Systemic Health Outcomes - ミシガン大学 歯学部
Periodontal Treatment and Endothelial Function - カリフォルニア大学ロサンゼルス校
Oral Inflammation and Cardiovascular Risk - 大阪大学 歯学研究科
口腔環境と唾液中免疫グロブリンAの関連 - 東京医科歯科大学(東京科学大学)
歯周病と全身炎症反応に関する基礎・臨床研究




