クリニックは3院までが医療の限界
2026年9月16日
規模拡大よりも、患者さんに寄り添うために

結論をいいます。
3院を超えたら、医療は人から離れはじめる。
今回は、少し系統が違う歯科医院の裏話と言いますか、内情をお話ししていきます。
例えば、歯科医院をいくつまで増やせるのか?を検証していきまする。
経営の視点で言えば、10院でも、20院でも可能です。実際、全国には大規模な医療法人グループが次々と誕生しています。
しかし、医療の本質は何か?と問えば、答えはまったく別の考えに行き着きます。
その本質とは、一人ひとりの患者さんと丁寧に向き合い、人生を支えること。
この原点を守ろうとすれば、歯科医院は3院が限界だと私は考えています。
実は、私自身、3院を運営してきて痛感しました。
4院目を持った瞬間、医療人としての感覚が薄れ、現場の患者さんよりも経営数字と管理に追われるようになる、その実感は、同業の先輩たちにも共通しています。
私の周りの誰もが口をそろえて言うのです。3院までは医療、4院からは経営だ、と。
現場から離れた瞬間、医療の温度が下がる

人は、顔を見て、声を聴き、触れて診ることで初めて医療が成立するはずなのです。
しかし、分院が増えれば増えるほど、院長が一人ひとりの患者を直接診る時間は減り、理念を伝えることすら時間的に難しくなります。
3院までは、まだ目が届くか、ギリギリ。スタッフ教育も、診療方針の共有も、自分の手で守れるかもしれませんが、4院目を越えた途端、現場の空気が変わります。
今日も忙しい、売上を達成しなければ、という数字の空気が漂い始めるわけです。
そうなれば、治療の一つひとつが効率で判断されてしまうことになります。
そうなると、患者さんの小さな違和感を見逃し、症状の背後にある体調や心の変化に気づけなくなる。
つまり、本質的なの医療の温度が下がることに繋がるわけです。
3院の壁が生まれる理由

歯科医院が3院を超えると、院長は医療者ではなく経営者に変わらざるを得えなくなるのです。
各院の売上、スタッフ管理、広報戦略、採用活動などなど。日々の業務が数字と管理に飲み込まれ、現場に立つ時間が削られていくのです。
理念や想いを伝えようとしても、直接触れ合う機会が次第に減ると、言葉だけが先走り、文化として根づかなくなります。
結果として、どれだけ患者さん第一を掲げても、現場では流れ作業的な医療が生まれてしまうのです。
そして、10院を超える頃には、医療法人というよりも企業体になります。
投資回収、効率化、人件費削減。そうなると医療ではなく、ビジネスの論理で動く組織に変わってしまうのです。
それはまるで、料理の味を追求していた職人が、いつの間にか数をこなすシェフになるようなものでしょう。
確かに収益は上がるかもしれませんが、味という、医療の質は薄くなるのは避けられないのです。
M&Aを断った理由――「医療を守るための選択」

お話しすべきかどうか迷いましたが、以前、私のもとに、50億円規模のM&Aの提案がありました。
全国展開すればブランド価値も上がる、経営リスクも分散できるとお誘いを受けたのです。
しかし、私は迷わず断りました。
その理由は明確です。
効率化と引き換えに、私が創始者として開発したトータルヘルスケアプログラム®の本質が失われるからです。
これは、100時間以上の精密分析をもとに、噛み合わせ・姿勢・呼吸・自律神経を統合的に評価する完全オーダーメイドの治療プログラムです。
一人ひとりの全身を見つめ、時間をかけてその人の健康を再構築していく医療なのです。
流れ作業やマニュアル化では絶対に再現できませんし、もしすると治療の精度が低下するのです。
だからこそ、私は拡大ではなく、精度を選びました。
数よりも質が大切でありつづける。
それが医療人としての誇りなのです。
医療が心に影響を与えるという現実

歯科治療は歯だけの問題と思われがちですが、実際には全身と心に深く影響します。
特に矯正治療や外科的手術の後に、不安や抑うつが生じるケースが世界中で報告されています。
東京大学の研究では、矯正治療開始後に不安や気分の落ち込みが強まる例が確認されました【1】。
中国・四川大学の研究でも、不安が生活の質を著しく下げる主要因になるとされています【2】。
日本では、顎矯正手術後に大うつ病性障害を発症した症例報告もあり【4】。
さらに海外では、不適切な矯正が引き金となり、非定型歯痛(Somatoform pain disorder)に発展した例もあります【6】。
こうした事例が示すのは、歯科医療は、身体だけでなく心にまで影響する、という厳然たる事実なのです。
だからこそ、私たちは数を追わず、一人ひとりに深く向き合う医療を守らなければならないと私は考えているのです。
トータルヘルスケアプログラム®――“拡大では届かない医療”

このプログラムは、ただの噛み合わせ治療ではありません。
全身の姿勢や筋肉の緊張、自律神経のバランス、呼吸の質までを分析し、患者さんの「人生の質(QOL)」を回復させることを目的としています。
一般的な医院が行う1回完結の治療とは違い、年単位でサポートを行い、再分析を重ね、変化を追跡していく、全く新しいアプローチとなります。
まるで、患者さんと二人三脚で体の再生プロジェクトを進めていくような医療なのです。
こうした手間と時間を要する医療は、スピードと効率を重視する大規模展開では到底実現できません。
だからこそ、3院が限界なのです。
結びとして、
医療の本質は数ではなく精度
歯科医院を3院までにとどめるのは、経営の都合ではなく、医療人としての誇りを守るための選択なのです。
4院目を持てば、経営者としての成功は手に入るかもしれませんが、しかし、患者さん一人ひとりの人生に寄り添う医療は、確実に遠のいていくのです。
私たちは、効率ではなく、信頼を積み上げたい。
そして、治療をきっかけに人生が変わった、と感じてもらえるような医療を提供し続けたいのです。
だから私は断言します。
歯科医院は3院までが、医療の限界である。
それ以上を追えば、医療は数字になり、患者は人ではなくデータになってしまうのです。
医療とは、人と人が本気で向き合う営み。
その温度を守るために、私は3院という限界の中で、最良の医療を、これからも磨き続けて提供していきます。
コラムはウエスト歯科クリニックと玉川中央歯科クリニックで、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。
参考文献
- Liu, Z. et al. (2021). Anxiety, depression and oral health-related quality of life during initial orthodontic treatment. Angle Orthodontist.
- Sun, L. et al. (2021). Impact of treatment delay on depressive symptoms among orthodontic patients during the COVID-19 pandemic. Frontiers in Psychology.
- Curto, A. et al. (2022). Oral-health-related quality of life and anxiety in orthodontic patients with conventional brackets. Int J Environ Res Public Health.
- Kuroda, S. et al. (2010). Major depressive disorder following orthognathic surgery: A report of three cases. J Oral Maxillofac Surg.
- 日本口腔心身医学会誌. 歯科治療後に口腔感覚異常を訴えた症例報告.
- Mehr, M. et al. (2017). Somatoform pain disorder induced by orthodontic treatment: A case report. J Oral Rehabil.
- Nishimura, M. et al. (2022). Orthodontic treatment difficulties in adults later diagnosed with autism spectrum disorder: Case reports. Psychiatry Clin Neurosci.
- Case Report: Challenges of orthodontic treatment leading to school dropout. Frontiers in Psychiatry, 2025.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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