がん治療は、歯周病を悪化する?!
2026年8月10日
結論をいいます
がん治療は、歯ぐきにも悪影響を及ぼします
がん治療は命を救うために大切な治療ですが、その過程で体の免疫や炎症のバランスが大きく変わることをご存じでしょうか?
その変化は口の中に真っ先に表れ、歯ぐきの腫れ、出血、痛み、口の乾きなどを通じて歯周病を悪化させやすくするのです。
これは歯ブラシのブラッシング不足ではなく、治療によって体の防御力や修復力が一時的に落ちることから引き起こされるのです。
はじめに
多くのガン治療の患者さんが、治療中に歯ぐきが腫れる、血が止まりにくい、歯が浮く感じがする、口が乾く、と訴えます。
近年の研究では、抗がん剤、分子標的薬、放射線治療、免疫療法といった治療そのものが、口の中の細菌バランスや粘膜の元気さ、唾液の量、血流に影響して、結果的に歯周病が進みやすい環境をつくることを示しています。
つまり治療中の歯周病悪化は磨き方の問題ではなく、体の内側の変化が原因なのです。
免疫が下がると、歯ぐきの炎症が長引く

抗がん剤や一部の免疫調整薬は、細菌とたたかう白血球の働きを弱めるといわれています。
そうなると、普段なら抑えられている歯周病菌が増えやすくなり、歯ぐきの中で火種となる炎症がくすぶり続けるのです。その結果、腫れや出血が続いて、歯を支える骨が少しずつ弱っていく傾向が高まります。動物実験では、治療後に早期の段階で歯を支える骨の減りが加速することも示されています(Liang 2020)。
治療薬は、唾液と血の流れも変えてる

唾液は口の自浄作用であり、歯ぐきの血流は修復の要となります。
ところが、分子標的薬や血管の増え方を抑える薬は、歯ぐきの細い血管を縮めて、修復に必要な細胞が届きにくい状態をつくることがあるのです。唾液腺が影響を受ければ口が乾いて、歯に汚れがたまりやすくなります。
そうなると、次第に炎症が長引きやすくなってきて、傷や炎症が治りにくい口内環境になるのです(Keller 2021)。
放射線は骨と歯ぐきの防御を弱らせる

頭頸部への放射線治療では、唾液が減るだけでなく、歯を支える骨や歯根の周りの組織そのものがダメージを受けやすいといわれています。
免疫細胞や、骨の新陳代謝に関わる細胞の元気が落ち、炎症が長く残るようになります。放射線の照射範囲や線量によっては、歯周病が進みやすく、まれに骨の壊死に至ることもあると報告されています(Sato 2020)。
抗がん剤は、口の細菌バランスを組み替える

抗がん剤や抗菌薬は、悪い菌だけでなく良い菌まで減らしてしまうことがあります。
そうなると、歯周病を助長する菌が増えて、炎症を呼び込みやすくなるのです。実際、化学療法中の患者では、歯周病に関わる菌が増え、炎症のサインと比例していたという報告があります(Yamada 2022)。
こうした細菌の変化は、粘膜炎やカンジダ症など別の口腔トラブルにもつながるのです(Heslop 2021)。
免疫療法は、免疫が強く働きすぎるかも

免疫チェックポイント阻害薬は、眠っている免疫を起こしてがんと戦わせる一方で、自分の組織を誤って攻撃することがあるといわれています。
(免疫関連有害事象)。口では自己免疫性の歯肉炎や唾液腺炎として現れ、長引く腫れや出血、痛みを招くことがあるのです(Kim 2022)。この場合、通常の消炎薬が効きにくいこともあり、専門的な口腔管理が重要になります。
体と口の炎症は、お互いを悪化させる

がん治療のあとに体全体の炎症の数値が高い人ほど、歯ぐきの炎症も強くなり、骨の減りが進みやすいという報告がされていまふ(Furukawa 2021)。逆に、口の炎症も全身のだるさや発熱を助長することがあるのです。つまり、体と口の炎症は双方向につながっていて、どちらかを整えることが、もう一方の回復を助けることになるのです
歯周病の悪化は、治療スケジュールに影響

歯ぐきの痛み、腫れ、出血が強いと、食事がとりにくい、薬が飲みにくい、感染が起きやすいといった問題が重なって、治療の中断や延期につながることがあります。実際に、重い歯周病がある患者では、治療中断や感染の発生が多いというデータがあります(Lindqvist 2021)。
口のトラブルは、がん治療の治療をスムーズに完走させるのに影響し得る重要課題となります。
では、どう守っていくのか

世界的に推奨されているのは、治療の前から口の環境を整えて、治療と併用して、継続して口の中の環境を守り続けるという考え方になります。
治療前に歯石や汚れを徹底的に取りのぞき、腫れを落ち着かせておくのです。
治療中は歯ブラシで優しく磨き、刺激の少ない洗口や保湿ジェルで乾燥を防ぎ、痛みが強い日は磨く場所と順番を工夫するといいでしょう。
治療後は定期的にクリーニングとチェックを受け、再燃の可能性を早めに摘んでしまう。
こうした一連の行為によって、放射線後の歯周病の悪化が有意に減ったという報告もあります(Yoshida 2022)。
つまり、がん治療と並行して口を守る習慣をつくることが肝心といえます。
まとめとして
がん治療は体の免疫と炎症のバランスに影響を与えます。
だからこそ、その影響は口の中に早期に、はっきり現れるのです。歯周病を放置すれば、治療の副作用や感染リスクは高まって、スケジュールにも響く可能性がでてきます。ということは、口の炎症を抑えて、唾液と血の巡りを保って、細菌のバランスを整えることは、治療を乗り切る力を支えて、回復を後押しすることが大いに期待できるのです。
がんを治すことと口を守ることは、別々の問題ではなく、同時並行の治療が問題解決の鍵となるのです。
コラムは ウエスト歯科クリニック と 玉川中央歯科クリニック で、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。
参考文献
- Liang, Y. et al. (2020). Cancer Immunology Research, 8(11), 1501–1512.
- Keller, M. et al. (2021). Oral Diseases, 27(8), 1835–1843.
- Sato, M. et al. (2020). Radiation Research, 193(6), 589–599.
- Yamada, N. et al. (2022). Frontiers in Oral Health, 3, 874201.
- Heslop, R. et al. (2021). Mayo Clinic Proceedings, 96(10), 2682–2695.
- Kim, J. et al. (2022). Oral Oncology, 126, 105737.
- Furukawa, T. et al. (2021). Scientific Reports, 11(1), 10857.
- Lindqvist, B. et al. (2021). Cancer Medicine, 10(13), 4445–4455.
- Yoshida, H. et al. (2022). Supportive Care in Cancer, 30(5), 4073–4081.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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