なぜ、加齢とともに鼻が効かなくなるのか?
2025年12月30日
みなさん、こんにちは。Dr.Ryoです。今回のテーマはこちらです。
なぜ、加齢とともに鼻が効かなくなるのか?
加齢とともに嗅覚が低下する症状は、多くの人が経験すると思います。
統計的にも六十歳以上の約20パーセント、八十歳以上では50パーセント近くが程度の差はあれ、嗅覚障害を抱えているといわれています。このことを放置すると、感覚の衰えという問題だけでなく、生活の安全と健康に直接的に関係する問題に発展するのです(Doty & Kamath, 2014)。
そもそも、匂いとは食生活を豊かするという意味だけではなく、ガス漏れなどの危険を察知するものでもあるのです。動物全般に言えると思いますが、生存戦略にかかせない機能ともいえます。
また、学生時代に食べた食品の匂いから、感情や記憶を呼び起こすこともできる能力も合わせ持つのです。その機能を喪失してしまうと、食欲の減退、社会的交流の減少、生命の危険まで多岐にわたってら大きなマイナスの影響を及ぼしてしまいます。
嗅覚のメカニズム

嗅覚は鼻腔上部に位置する嗅上皮に存在する嗅細胞によって担われる。匂い分子が嗅覚受容体に結合すると電気信号が発生して、嗅球を経由して脳の嗅覚皮質に伝達されます。(Buck & Axel, 1991)嗅細胞は、生まれてから死ぬまでずっと新生する能力を持っている、珍しい神経細胞なのですが、その再生能力は歳を重ねるとともに、低下することが知られています。(Brann & Firestein, 2014)、このことが、嗅覚が低下する原因の一つとされています。
加齢によるもの

歳を重ねることでおきる嗅覚の低下はさまざまな要因によって引き起こされます。
例えば、嗅上皮では、嗅細胞の数が減少して、配列も乱れます(Naessen, 1971)。嗅覚情報の中継点といわれる嗅球は、高齢者になると体積の縮小が認められています(Hummel et al., 2011)、神経変性疾患であるアルツハイマー病、パーキンソン病は嗅覚の低下が初期症状として現れることも明らかとなっています(Doty, 2017)。
さらに、歳を重ねると、鼻腔粘膜は乾燥しやすくなり、鼻汁の分泌 や線毛運動が低下するため、匂い分子が嗅上皮に到達しにくくなるのです(Seiberling & Conley, 2004)。このよう複合的な身体の変化が嗅覚低下を招いています。
生活習慣と環境

歳を重ねたことによる自然な変化だけでなく、生活習慣や周りの環境が嗅覚機能の低下を助長します。
例えば、喫煙は嗅上皮に直接障害を与えます。(Katotomichelakis et al., 2007)、また、大気汚染が多い地域に暮らす人は、他の地域で暮らす人と比べて、早期から嗅覚障害がみられる(Calderón-Garcidueñas et al., 2010)。また、亜鉛、ビタミンAという栄養素は嗅細胞の再生に必須なのですが、不足すると嗅覚障害を悪化させるのです(Henkin et al., 1975)。
そのため、嗅覚機能の低下は歳を重ねることによる避けられない、不可避な変化だけではなく、環境と生活習慣も複雑にからみあって影響していると考えられるのです。
免疫と炎症

嗅覚と免疫機能は密接に関わっています。例えば、風邪やインフルエンザの病み上がりの時に、匂いが失われることがあります。COVID-19の時にも嗅覚障害が代表例としていわれた症状です(Lechien et al., 2020)。
つまり、ウイルス感染や慢性炎症が嗅上皮を損傷させるために起きたのです。年齢が若いと再生能力が高いので回復するのですが、年配になると、免疫力が強くないことから修復が遅れて、障害が長く続きやすくなります。
つまり、免疫力の低下や、衰えは、年を重ねたことによって起きる嗅覚の低下を進める重要な要因といえるのです。
嗅覚低下の影響

嗅覚の低下が起きると、食欲が低下して、食事を楽しめなくなり、低栄養、体重の減少につながることがあります(Murphy et al., 2002)。
また、匂いに気付かないとガス漏れや腐敗の匂いに気づきにくくなるという問題だけでなく、火災時の煙や焦げた匂いに反応できずに、逃げ遅れる危険が高まるのです。これは嗅覚低下が生命を守るセンサーの機能不全を意味しますから、生命の危険を招きかねないともいえます。
また、嗅覚低下はアルツハイマー病など認知症の初期症状といわれ(Devanand et al., 2015)、また、匂いや、香りによって得られる感情や記憶を思い出すということが失われます。そうなるとうつ状態のリスクも高まるのです。嗅覚の低下は感覚障害という単純な問題ではなく、健康寿命に直結する課題といえます。
改善と予防

加齢を止めるのは不可能ですが、嗅覚の低下のスピードを緩やかにして、改善を図ることは可能である。
例えば、嗅覚トレーニングでは、ローズらユーカリといった香りを繰り返し嗅ぐことで改善効果が報告されています(Hummel et al., 2009)。生活習慣の見直し、禁煙、栄養バランスの確保、十分な睡眠、適度な運動は免疫力を維持して、嗅覚の回復を助けます。副鼻腔炎や歯周病などの慢性炎症の治療も効果的です。実は、嗅覚の維持は鼻だけでなく、全身の健康を整えることによって支えられると考えられます。
トータルヘルスケアの視点

以上の考察から、嗅覚低下は、鼻の老化だけではなく、免疫、栄養、神経・生活習慣が複雑に絡み合って生じる全身的な問題です。
そのため、治療するとなると包括的なが不可欠となります。医療法人社団 聖和厚生会が提供する トータルヘルスケアプログラム® は、最大100時間以上に及ぶ精密分析を通じて免疫、栄養、生活習慣、ストレス状態を総合的に評価し、改善をサポートする医療プログラムです。
嗅覚は香りを楽しむためだけでなく、生命を守り、心の健康を支える重要な感覚です。その機能の維持のためには全身の調和を重視するアプローチが必要であり、トータルヘルスケアという視点はきわめて有効であると考えています。
最後に
歳を重ねると、鼻が効かなくなる理由は嗅細胞の減少、嗅球の萎縮、鼻腔環境の変化、免疫機能の低下、生活習慣などの環境要因の複合的な累積による老化現象です。しかし、別の視点で考えてみると全身を整えると嗅覚を守れる可能性があるといえるのです。
つまり、免疫力を高めて、生活習慣を見直すことは、香りを楽しむだけでなく、同時に命を守ることにつながるのです。嗅覚を保つことは健康寿命を支えて、人生を豊かにすることです。歳を重ねるとことで変化する身体をどのように支えていくか、その答えの一つが、トータルヘルスケアプログラムと言えると考えています。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。
みなさんは、やりたいことを、精一杯やりたくないですか?
そのお手伝いをさせていただきたいと考えています。
お困りなことがありましたら、お気軽にご相談ください。
みなさんにとって、未来が輝かしいものであることを願っています。
統括院長 Dr.Ryo
このコラムは、ウエスト歯科クリニック、玉川中央歯科クリニックにそれぞれ、別の内容で掲載しています。両方、ご覧いただけると、健康面の理解が深まると思います。
参考文献
- Doty RL, Kamath V. “The influences of age on olfaction: a review.” Front Psychol. 2014;5:20.
- Buck L, Axel R. “A novel multigene family may encode odorant receptors.” Cell. 1991;65(1):175–187.
- Brann JH, Firestein SJ. “Regeneration of new neurons in the adult olfactory system.” Nat Neurosci. 2014;17(9):1147–1154.
- Naessen R. “Anatomic observations on human olfactory epithelium.” Acta Otolaryngol. 1971;71(1):49–62.
- Hummel T, et al. “Olfactory bulb volume in healthy subjects.” J Neurol. 2011;258(8):1313–1319.
- Doty RL. “Olfaction in Parkinson’s disease and related disorders.” Neurobiol Dis. 2017;103:2–9.
- Seiberling KA, Conley DB. “Aging and olfactory and taste function.” Otolaryngol Clin North Am. 2004;37(6):1209–1228.
- Katotomichelakis M, et al. “The effect of smoking on olfactory function.” Rhinology. 2007;45(4):273–280.
- Calderón-Garcidueñas L, et al. “Air pollution and olfactory dysfunction in urban children and young adults.” Exp Toxicol Pathol. 2010;62(1):91–102.
- Henkin RI, et al. “Hyposmia, dysgeusia, hyposmia with zinc deficiency.” Am J Med Sci. 1975;270(2):97–103.
- Lechien JR, et al. “Olfactory and gustatory dysfunctions in COVID-19.” Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020;277:2251–2261.
- Murphy C, et al. “Prevalence of olfactory impairment in older adults.” JAMA. 2002;288(18):2307–2312.
- Devanand DP, et al. “Olfactory deficits predict cognitive decline and Alzheimer dementia in an urban community.” Neurology. 2015;84(2):182–189.
- Hummel T, et al. “Effects of olfactory training in patients with olfactory loss.” Laryngoscope. 2009;119(3):496–499.




