マスクをすると口臭が強くなる?
2026年8月4日
結論 をいいます
マスクが引き金となり、口腔環境を変えるのです
マスクを着けると口臭が強くなったように感じる、多くの人が経験すると思います。
マスクは呼吸の仕方や口腔の湿度を変えて、唾液分泌を減少させます。
唾液の防御機能が弱まることで、口の中で細菌が活発になり、揮発性硫黄化合物(VSC)と呼ばれる臭い物質が増加するのです。
つまり、マスクをすると口臭が強くなるのは、気のせいなどの、感覚的なものではなく、生理的にも裏づけのある現象なのです。
唾液の防臭効果

唾液は、私たちの口の中を清潔に保ってくれる、バリアのようなものです。
歯や舌の表面を洗い流して、細菌を抑える抗菌成分を含んでおり、酸性に傾いた口腔内を中和する働きもあります。
さらにカルシウムやリン酸を供給して歯の修復である再石灰化を助けるなど、常にバランスを保ちながら無臭の口の状態を維持しています。
しかし、唾液が減り、乾燥した口では嫌気性菌が増殖しやすくなり、タンパク質を分解して硫化水素やメチルメルカプタンなどのVSCを発生させます。
これが、口臭の主成分です。つまり、唾液は口臭を防ぐための生体防御液なのです。
マスクによる呼吸の変化と乾燥

マスクは鼻と口を覆うことで、呼吸にわずかな抵抗を生じさせます。
その結果、無意識のうちに鼻呼吸から口呼吸へと移行しやすくなるのです。
シンガポール国立大学の研究では、医療従事者がN95マスクを装着すると鼻腔抵抗が上昇し、呼吸のしにくさを感じやすくなることが報告されています。
藤田医科大学の実験でも、湿度を保つ特殊なマスクでは鼻呼吸が維持されやすいことが示されており、逆に一般的なマスクでは口呼吸傾向が強まると指摘されています。
口呼吸は、唾液の蒸発を早める大きな要因となります。
鼻呼吸では空気が鼻腔で加湿・加温されますが、口呼吸では外気が直接口腔に入り、粘膜や舌を乾かしてしまうのです。この乾燥によって急激に唾液量が減少して、口臭のリスクが高まるのです。
マスクは、細菌が育ちやすい

長時間使用しているマスクの内部は呼気による湿気と熱で満たされ、細菌の繁殖に適した環境になります。
韓国・ソウル大学と慶熙大学の共同研究(Kim Y, Front Oral Health, 2023)では、マスクの内側から多数の口腔細菌が検出され、使用時間が長いほどその量が増える傾向が示されています。
これは、口腔内とマスク内で細菌が循環し、揮発性の臭気物質が溜まりやすくなることをしめしています。
さらに、乾燥によって唾液による抗菌力が低下すると、細菌はさらに増えやすくなります。
つまり、マスクは、自分の呼気を閉じ込めて、細菌の活動を助ける温床にもなり得るのです。
意外と知られていませんが、これが事実です。
マスクと口臭の関係

イタリアで実施されたBMC Public Health誌の研究では、FFP2マスクを着用した参加者で唾液量の減少とVSC濃度の上昇が確認されました。
これは、マスク使用によって実際に口臭が強まる可能性を示す重要なデータとなります。
一方、アメリカのテンプル大学による研究では、歯科学生を対象にした調査で、マスク装着後も口腔環境に有意な変化は見られませんでした。これは、若年層で清掃習慣の良い集団では影響が少ないことを示しています。
このように結果には差がありますが、唾液分泌量が少ない人や歯周病を抱える人ほど、口臭が強まりやすいということは変わらない事実なのです。
臨床現場の実感

歯科医院では、マスクをするようになってから口臭が気になってきた、という訴えが以前よりも増えています。
診察をしてみると、口腔乾燥、舌苔の増加、歯肉の軽い炎症が見られることも多く、唾液の減少が背景にあると考えられます。
中には、マスクを外すときに自分の息の臭いに驚いたと話す人もいます。
これはマスクをしたから自分の口の中の臭いを意識しやすくなったのではないかと、言う方もいますが、実際に口腔環境が変化している場合が多いのです。
口臭と歯周病・虫歯の関係

口臭の主な原因物質であるメチルメルカプタンは、歯周病菌が作り出すガスです。
このガスは強い臭気を持つだけでなく、歯周組織を破壊する毒性でもあります。
つまり、口臭の悪化と歯周病の進行は表裏一体の関係にあるのです。
唾液の抗菌作用が低下した状態では、歯周病菌が増えやすくなり、炎症も強まりやすくなります。
さらにら再石灰化作用が働かなくなるため、虫歯リスクも同時に上昇します。
マスクによる乾燥と口臭は、単なるエチケットの問題ではなく、病気を引き起こす引き金になりえるのです。
マスクの口腔ケア

マスク生活による口臭の増加は、主に乾燥と唾液の減少が引き起こします。
したがって、対策の中心は水分をこまめに摂り、ガムや飴で唾液分泌を促し、歯磨きや舌清掃を丁寧に行うことも重要です。
マスクは毎日清潔なものに替えて、たまには、外して深く鼻呼吸をする時間を設けることも効果的だと思います。
マスクそのものが悪いわけではありませんが、それによって変わる呼吸や唾液の問題が放置されてしまうことが問題なのです。
口臭を防ぐことは、他人への配慮ではなく、自分の健康を守る行為でもあります。
マスクが生活の一部であるのであれば、口腔環境を整える意識こそが、快適で健やかな呼吸を取り戻す鍵になると思います。
コラムは ウエスト歯科クリニック と 玉川中央歯科クリニック で、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。
参考文献
- Kim Y, et al. Oral microbiome of the inner surface of face masks and whole saliva during the COVID-19 pandemic. Front Oral Health. 2023.
- Zhu JH, et al. Effects of long-duration wearing of N95 respirator and surgical facemask: a pilot study. National University of Singapore. 2014.
- Fujita Y, et al. The effects of heated humidification to nasopharynx on nasal resistance and breathing pattern. PLOS ONE. 2019.
- BMC Public Health. FFP2 mask wearing and salivary volatile compounds in adults. 2022.
- Temple University Dental School Study, 2021.
- Dawes C. Salivary flow patterns and oral health. J Am Dent Assoc. 2008.
- Yaegaki K, Coil JM. Halitosis: clinical perspectives. J Can Dent Assoc. 2000.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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