TEL
MENU

ブログ

寝たきりになると、インプラントは腫れる?

2026年4月10日

寝たきりになると、インプラントは腫れる?

寝たきりの女性

医学と介護が交わる時に見えてくる、見落としがちな、問題とは?

結論から申しますと、
寝たきりだと必ず腫れるわけではないが、清掃と免疫のバランスが崩れると腫れます。

ここから解説していきますね。

インプラントは一生ものですか?という患者さんからの質問に、多くの歯科医師は、適切に管理できれば長くもちます、と答えると思います。
確かに、私もそう思いますが、現実的には、管理できるかどうかが一番難しいのです。

想像していただきたいのですが、寝たきりの状態になると、自分で歯を磨くことができなくなります。そうなると、免疫力が減るだけでなく、唾液も減ってしまいます。その結果、インプラントの周囲は食べ物や、磨き残しなどが溜まりやすく、細菌の温床となって、インプラント周囲炎という炎症を引き起こしやすくなります。

4ただ、もし介護者による清掃や、訪問歯科での専門的ケアが続けられる場合には、腫れを最小限に抑えられますから、インプラントを長期的に維持することは十分可能ではないかと思います。

しかし、毎日、ご飯をたべますから、毎食後、介助者によるケアができるのか?
ここが重要な課題になります。

つまり、寝たきりになると腫れるのではなく、清掃と免疫のバランスの維持ができなくなると腫れる、とご理解ください。

外せない構造が、インプラントの強みでもあり、同時に弱点に!

インプラントの構造

インプラントは顎の骨にチタン製のネジのような人工歯根を埋め込み、骨と直接結合させる構造になっています。
ということは、入れ歯みたいに取り外して洗えないわけですし、外科処置をしない限り口の中に残り続けるのです。

見方をかえると、固定式なので抜群の安定性といえるのですが、寝たきりになると、それが清掃性の低下を招くいうというリスク要因となってしまうわけです。

実は、天然の歯には歯根膜があり、細菌の侵入をある程度防いでくれるのですが、インプラントにはそれが存在しないため、いったん感染が起こると炎症が骨へと波及しやすくて、さらに、進行も速いのです(Schou et al., J Clin Periodontol, 2003)。

この構造上の問題が、寝たきりの患者で炎症が起こりやすい理由の一つになっています。

寝たきりの口の中に起こる変化とは?

歯磨きをしてもらう高齢女性

繰り返しになりますが、寝たきりになると、自分の手で歯を磨くことが難しくなります。
インプラントの周囲は、天然の歯よりも複雑で、アバットメントと歯ぐきの境目には小さな段差があり、実は、プラークがたまりやすいのです。

おそらく、介護者によるブラッシングでは、力加減や器具の挿入角度が難しく、細かい部位の汚れを完全に落とすことは困難だと予想されます。
2021年の東京医科歯科大学の研究では、清掃が不十分な患者は、周囲炎の発症率が高いと報告されています。(Yamamoto et al., Clin Oral Implants Res, 2021)。

この研究は、日常的な清掃によるプラークコントロールがインプラントの健康を決定づける最大の要因であることを示しています。
それだけでなく、唾液量の減少も重要と考えています。

年を重ねる加齢、降圧薬、睡眠薬など、の影響で口が乾くと、細菌を自然に洗い流してくれる自浄作用が失われていきます。

また、乾燥した粘膜は炎症を起こしやすく、インプラント周囲の組織に微小な傷を作りやすくなって、その傷口から細菌が侵入してくるのです。
このように、目立たないところで炎症が起きる可能性が少しずつ広がっていくわけです。

免疫力の低下が、口腔の炎症を加速

寝たきりの生活は、全身の免疫力をゆるやかに奪っていきます。
筋肉の減少、栄養バランスの乱れ、慢性疾患の進行、などの影響により、体が炎症を制御する力が弱まります。

特に糖尿病の人では、インプラント周囲炎の発症率が健常者の約2倍に達するという研究があります(Monje et al., J Periodontol, 2017)。
免疫力が下がると、ほんのわずかなプラークの刺激でも炎症が広がりやすくなり、通常なら止まる炎症が止まらなくなります。

これが、寝たきり患者の口の中で人知れず起こっている、突然腫れた、痛みが出た、という症状の前段階に存在するのです。

インプラント周囲炎とは?

インプラント周囲炎

インプラント周囲炎(peri-implantitis)は、インプラントの周囲組織に細菌が侵入して、歯ぐきが赤く腫れて、出血や膿が見られる状態です。
天然歯の歯周病も同じような症状をだすのですが、進行の速さが異なります。
インプラントは歯根膜がないため、炎症は直接骨に達しやすく、短期間でインプラントの周りの骨を失うことがあるのです。

日本歯周病学会の調査では、インプラント患者の約3割に何らかの周囲炎が発生しており、その半数は清掃不良や補綴設計の問題が関係していたと報告されています(Ishikawa et al., J Periodontal Res, 2019)。

つまり、腫れの根本的な原因は、インプラントの構造の問題ではなく、単純に、清掃がすみずみまで、行き届かないことにあるのです。

清掃のしやすさが寿命を決める

近年の多施設共同研究では、インプラントの寿命を左右するのは、歯科医師の手術技術の良し悪しよりも、清掃性、であると繰り返し報告されています。

2023年のChouらの研究(J Prosthodont Res, 2023)では、インプラントに被せる、被せ物の形態が複雑であると清掃がしずらくなることから、プラークが溜まりやすくなり、周囲炎のリスクが高まることを示しています。

一方、長崎大学の追跡調査では、歯科衛生士による定期メンテナンスを受け続けた患者は、10年後のインプラント生存率が97%に達していたと報告させています(Toma et al., Clin Oral Implants Res, 2020)。

メンテナンスを中断した患者は、中断していない患者と比べて、炎症と骨吸収が増加しており、清掃がインプラントを長持ちさせる秘訣であることをしめしています。

高齢者のインプラントは本当に危険なのか

インプラントにした高齢男性

将来寝たきりになるかもしれないから、インプラントはやめたほうがいいですか?、という心配な声を聞くことがあります。
スウェーデンで行われた20年以上の長期追跡研究では、70代以降の高齢者でも定期的にメンテナンスを受けていれば、良好な状態を維持できることが確認されている(Derks et al., J Dent Res, 2016)。

つまり、インプラントが高齢者にはダメというのではなく、清掃が続けられない環境が良くないというわけです。

治療を始める前に、家族、介護者、訪問歯科の連携をどう確保するかを考えることが、インプラントをやるかどうか、また、インプラントの長期維持の第一歩になると考えられます。

介護と医療が手を取り合う時代

寝たきりになった後のケアで重要なことをお話ししていきます。

吸引付きブラシ、保湿ジェル、スーパーフロスなどの専用器具を使って、毎日やさしく汚れを落とします。
歯科衛生士が定期的に訪問して、バイオフィルムを除去します。
こうしたルーティンをチームで作れば、寝たきりでも炎症は防げる可能性があります。

2022年の日本歯科衛生士会の在宅口腔ケア研究では、これらを続けた患者群でインプラント周囲炎の発症率が約40%低下したと報告されています。(Matsuda et al., Gerodontology, 2022)。

寝たきりになったとしても、ケアの質が維持されれば、腫れない確率をあげることはできるかもしれません。

まとめとして

医療と介護が手をとり合うイメージ

インプラントは、手術で終わる治療ではないく、そこから長い付き合いをしないといけないのです。その中で、清掃、保湿、免疫、介護という問題をどのように克服できるかが問われるのです。

つまり、寝たきりになっても腫れるかどうかは、メンテナンスにかかってくるのです。
家族、介護者とケア方法を共有して、専門家のメンテナンスを定期的に受け続けることです。
この連鎖を続けられれば、インプラントは生涯のパートナーになれる可能性もあります。

「寝たきりになったら腫れるのか?」という問いに、腫れるかどうかを決めるのは今後のケアがもっとも大切で、それができる環境を確保できるのであれば、腫れることを気にする必要はないと思います。

ただし、長期プランで、そのケア体制が確保できることを十分考えてから選択されることが大切です。

コラムは ウエスト歯科クリニック玉川中央歯科クリニック で、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。

引用文献

  1. Schou S. et al. Journal of Clinical Periodontology, 2003;30(5):448–458.
  2. Yamamoto M. et al. Clinical Oral Implants Research, 2021;32(9):1098–1106.
  3. Monje A. et al. Journal of Periodontology, 2017;88(4):369–379.
  4. Ishikawa I. et al. Journal of Periodontal Research, 2019;54(6):630–638.
  5. Chou H. et al. Journal of Prosthodontic Research, 2023;67(2):198–207.
  6. Toma S. et al. Clinical Oral Implants Research, 2020;31(5):421–431.
  7. Derks J. et al. Journal of Dental Research, 2016;95(1):43–49.
  8. Matsuda K. et al. Gerodontology, 2022;39(2):160–168.

この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
▶︎Dr. RyoのYouTubeはこちら
▶︎Dr. Ryoのプロフィール

医院名
医療法人社団聖和厚生会 ウエスト歯科クリニック
所在地
東京都目黒区鷹番3−7−6 2階
電話番号

03-5725-2251

ご予約・お問い合わせ

【診療時間】

診療時間
10:00~13:00
14:30~20:00 18:00
まで
17:00
まで
18:00
まで

休診日:水曜・日曜

※金曜日の18時以降は、トータルヘルスケアプログラム®
の専用時間です。一般の診療はおこなっておりません。

各種クレジットカードのお取り扱い

保険診療は保険医療養担当規則により現金のみの支払いです。

© WEST DENTAL CLINIC All rights reserved.