なぜオリンピック選手は噛み合わせを整えるのか?
2025年10月7日
今回のデータはこちらです。
なぜオリンピック選手は噛み合わせを整えるのか?
歯科医が考える、噛み合わせと身体のパフォーマンスの関係
オリンピック選手はなぜ、噛み合わせ、を直すのか? 噛み合わせが身体の姿勢、筋力、集中力に与える影響を解説していきます。最新の研究を交えながら競技成績アップと、口との関係性を検証します。
はじめに
オリンピックに出る選手は、例外なくほんの僅かな違いに敏感だと思います。0.01秒、いやもっと、わずかな姿勢のブレ、アンバランス、そんな微差が試合の勝敗を分けるからです。
実は、その微妙なアンバランスに大きく関わっているのが噛み合わせなのでです。
噛み合わせと聞くと地味なイメージですが、身体全体を支える大切な要因になります。ここからは、なぜトップアスリートが噛み合わせを大切にするのか、最新の研究などもご紹介しながらお話ししていきます。
噛み合わせと姿勢の関係とは?
噛み合わせは食事を細かく咀嚼するためだけではなく、全身のバランスに影響するのをご存じでしょうか。たとえば、噛み合わせがズレれば頭の位置が変わり、それを補正するように身体全体でそれに合わせた位置にずれていくのです。そのようなメカニズムから首や肩の筋肉が必要以上に働いて姿勢が大きく乱れていきます。
2025年にPopoviciらが発表したレビュー(Dentistry Journal)は、咬合の不安定さがバランス能力に悪影響を与えることを明らかにしました。つまり、片足立ちやジャンプなどのバランス感覚が必要とされる場面で重心がブレて揺れやすくなるというのです。
器械体操やアイススケートなどで着地のほんのわずかのバランスのブレが減点になるわけですから、彼らにとっての噛み合わせのズレや乱れはリスクと言えるのです。
咬合調整で筋力は上がるのか?
かみ合わせを直しただけで力が出るなんて本当?、と驚かれる方もいます。
HaugheyとFine(2020, BMJ Open Sport & Exercise Medicine)の研究は、下顎を理想的な位置に調整した場合の変化を調べるものでした。そうすると下肢の筋力が約6%、上肢は10%向上したという驚くべき結果がでたのです。それ以外にも柔軟性は14%、バランス能力も改善したそうです。オリンピックにでる選手たちのレベルからみると、これが大きく勝敗を左右する差になりえるのです。
Bechtoldら(2025, Frontiers in Sports and Active Living)は、マウスピースのような咬合スプリントの装着で大腿四頭筋やハムストリングの筋力に変化があることを確認しました。噛み合わせが神経筋機能に影響しているということです。
また、Militiら(2020, Minerva Dental and Oral Science)のレビューでも、噛み合わせの調整は筋力や持久力、柔軟性に良い効果をもたらす可能性が高いとまとめられています。こうなるとただ単なる偶然の産物ではなく、科学的な裏付けがあると十分に言えると思います。
マウスピースとは?どんなもの
マウスガードは、もともとラグビーや格闘技で歯を守るためのものでしたが今は、その役割が複数出てきました。
マウスピースで噛み合わせを安定させると、顎の関節の負担が大幅に軽減し、首や肩の緊張がやわらぎ、呼吸が深くなります。その結果、姿勢も安定してくるのです。
2024年のMouhibiら(Open Access Library Journal)の研究は、噛み合わせの安定が体幹のバランスを高めて集中力の維持がしやすくなることが報告されました。つまりマウスピースは歯を守る装置から本来のパフォーマンスを引き出す医療用装置へ大幅に進化したといえるよです。
オリンピック選手と口の中のトラブル
実は、アスリート=健康というイメージとは反対に、口の中は意外にも不調だらけなのが実情といわれています
ロンドン五輪(2012)の調査(Needlemanら, Br J Sports Med)では、55%の選手に虫歯、45%に酸蝕症、76%に歯肉炎が確認されましたようです。さらにここが深刻なところなのですが、40%は口の中の不調が練習や試合の結果や集中力に影響している可能性があると、いうのです。
痛みや炎症は集中力を低下させて、慢性炎症は疲労しやすくなるだけでなく、回復も遅らせます。このため、近年のオリンピックでは歯科医がチームドクターに加わることが常識になっています。
まとめ
噛み合わせは、目立たないけど、健康を支える土台
オリンピック選手が噛み合わせを整えるのは、見た目や食事の快適さのためではなく、複数の要素があるのです。
- 姿勢とバランスを安定させる目的
- 筋力や柔軟性を高める目的
- 呼吸を安定した効率的にする目的
- 虫歯や歯周病を防ぎ、集中力を維持する目的
こうした効果があるなら、トップアスリートにとっては当然の選択であり、スポーツ愛好家や一般の方にとっても無視できない要素なのです。
噛み合わせを整えることは、単に歯科治療ではなく、未来の自分の健康への医療投資。そうお考いただくと、歯科への向き合い方も変わってくると思います。
Dr.Ryoからのご案内
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。このコラムを読んだ後、自分の噛み合わせ、本当に大丈夫かな?と考えたもいらっしゃると思います。オリンピック選手だけでなくても、噛み合わせが原因で体の不調を抱えている人も多数、受診されている現状があります。
そのような声に答えるために、当院では、通常の診療に加えて[プレミアムコンサルテーション]を行っています。これは、噛み合わせや顎の関節の精密なチェックを行い、必要に応じてトータルヘルスケアプログラム(姿勢・呼吸・生活習慣まで含めた最大100時間超分析の包括的サポート)をご提案する特別なプログラムです。
歯や身体の違和感や、不調を諦める前に、一度じっくりとご自身の噛み合わせを見直してみませんか? 未来の健康パフォーマンスも、免疫力向上、日常の快適さも、その小さな一歩から変わっていくことは間違いありません。
ウエスト歯科クリニックと玉川中央歯科クリニックでは、それぞれで異なる専門的なコラムを掲載しています。読み比べていただくことで、より深い理解に繋がりますから、ぜひ、もう一つのホームページもご覧になってください。
最後まで、読んでいただいてありがとうございました。
参考文献
- Bechtold L, et al. Front Sports Act Living. 2025.
- Popovici I, et al. Dentistry Journal. 2025.
- Mouhibi S, Elboussiri S. Open Access Library Journal. 2024.
- Haughey T, Fine P. BMJ Open Sport Exerc Med. 2020.
- Militi A, et al. Minerva Dental and Oral Science. 2020.
- Needleman I, et al. Br J Sports Med. 2013.
- FDI World Dental Federation. Sports Dentistry Guidelines. 2020.