同じ話ばかりするのは、〇〇の低下が本当の原因?!
2026年3月6日
最近、同じ話ばかりを繰り返すようになった、と家族から言われたら、多くの人は、記憶の衰え、や、ボケ、を疑うと思います。その推測は当たっていて、短期記憶の低下や海馬の機能変化は、同じ話を何度も繰り返す原因の一つであります。しかし、それ以外の潜在的な要因として、噛む力、つまり、咀嚼機能の低下、という、生理的変化が関係している可能性があるのです。
近年、国内外の研究では、噛むこと、と、脳の血流、海馬の活性化、認知機能、の密接な関係が次々と明らかになってきています。ということは、噛めないことは、同じ話ばかりすることに結びついているかもしれないという、今までにない、全く新しい視点が生まれているのです。
海馬の働きが鍵

同じ話を繰り返すのは、記憶をつかさどる海馬(hippocampus)の機能低下と深く関わっています。海馬は、短期記憶を長期記憶に変換する機能があり、アルツハイマー型認知症ではこの部位が最初に萎縮すると言われています。
2015年のオックスフォード大学の報告(Squire et al., Brain, 2015)では、海馬は過去の記憶を蓄えるだけでなく、会話中の直前に話した内容を保持するメモリーの一部としても働くことが示されています。そのため、海馬の機能が低下すると、さっきまで話したことを覚えておけず、本人の自覚がないまま同じ話を繰り返すことになります。
これは、アメリカ国立老化研究所(NIA)やアルツハイマー協会(Alzheimer’s Association)が 初期認知症の特徴的兆候のひとつ として紹介する、反復言動(repetitive speech)というものです。また、最近の出来事を忘れて昔の話を繰り返す傾向が強い場合は、脳内での記憶統合に障害が起きている可能性が高いと考えられます。
噛むことが脳を活性化させる
物を粉砕する咀嚼は、単に食物を砕くだけではなく、噛むたびに、顎の筋肉が収縮し、その情報が三叉神経を通じて脳幹や大脳皮質に伝わります。このとき、脳にある、思考・判断・注意の中枢をつかさどる前頭前野や、記憶中枢をつかさどる海馬の血流が増加して、神経活動が高まると数多くの研究で報告されています。
2010ねんの東京大学の研究チーム(Ono et al., J. Oral Rehabilitation, 2010)は、物を粉砕する咀嚼中に前頭葉および海馬の血流量が上昇することをfMRIで確認しています。これは、噛む刺激が脳の覚醒を高めて、認知機能を支えることを示しています。さらに、2013年の神戸大学の研究(Hirano et al., Brain Research, 2013)では、ガムを噛むことにより前頭前野の酸素化が上昇し、記憶課題(ワーキングメモリ)の成績が向上したそうです。
つまり、噛むことが、脳トレーニングになるわけです。そのために、物を粉砕する咀嚼の回数が減ると、この信号が弱まって、脳血流や代謝の低下がみられるようになります。とくに、海馬は、血流減少に敏感で、その影響が記憶力低下や物忘れに直結すると考えられます。
噛めないと脳血流が低下し、海馬が活動低下
歯がないとか、悪い噛み合わせを放置すると、噛む力が低下して、物を粉砕する咀嚼刺激が減少します。この状態が長期間続くと、脳への血流が減って、神経活動が鈍くなるのです。
2016年の東北大学の研究(Yoshino et al., Neuroscience Letters, 2016)では、歯を抜いたマウスで、海馬の神経新生が著しく低下して、空間記憶テストの成績が悪化することがわかりました。物を粉砕する咀嚼刺激無くなったことで、神経細胞の再生や柔軟な適応力に悪影響を与えるのです。
2017年の広島大学と九州歯科大学の共同研究(Kubo et al., Frontiers in Aging Neuroscience, 2017)では、歯の欠損や入れ歯を使わない高齢者は、認知症リスク上昇と関連することを報告しました。
東京歯科大学と理化学研究所の共同研究でも、歯の喪失が多い高齢者ほどアルツハイマー型認知症の原因タンパク「タウ(tau)」の脳内蓄積が多い傾向がPET画像で確認され、噛む刺激の欠如が神経変性の進行に関与する可能性が指摘されているのです(Tada et al., Journal of Alzheimer’s Disease, 2021)。
同じ話ばかりする行為は、噛む力低下のサインか?

こうした研究かは、以下の流れが考えられるようになります
まず、噛む力の低下
↓
脳血流・酸素供給の減少、
↓
海馬・前頭葉の神経活動低下、
↓
記憶の保持と更新が困難になり、
↓
同じ話を繰り返す反復言動をするようになる。
つまり、物忘れ ではなく、噛む力が落ちて脳が十分に刺激されていないことで、会話の内容を新しく記憶できなくなり、同じ話ばかりしてしまう、というループが生じている可能性があるわけです。
原因を解決する鍵としてのトータルヘルスケアプログラム®︎

この、噛む力と脳活性の関係、を踏まえて、根本的に改善を目指す方法のひとつが、医療法人社団 聖和厚生会が提供するトータルヘルスケアプログラム®︎になります。
このプログラムは、単なる歯科治療を超えた全身と脳を統合的にサポートする医療プログラムになります。
トータルヘルスケアプログラム®︎の最大の特徴は、人間の根源的機能を医学的データに基づいて総合的に再構築する点にあります。精密な咬合分析や3D診断をもとに、低下した咀嚼機能を回復して、顎の動きや神経伝達のバランスを整えます。それによって、脳への血流と神経刺激を回復して、海馬を含む脳全体の活性化を促すことを目指しています。
さらに、このプログラムでは、歯や顎だけでなく全身の筋肉、姿勢、呼吸、栄養、睡眠、ストレスなどを総合的に評価していきます。これは、脳・口腔・身体、の連動を重視する最新の医療アプローチでもあり、海外の研究でも、全身の代謝状態と認知機能の関連が強く報告されています。
咀嚼機能の回復を入口として、脳と体の統合的健康を取り戻す――それがこのプログラムの本質になります。
噛むことの回復が、記憶と会話を取り戻す

同じ話ばかりするのを、年のせい、と言ったら身も蓋もありません。しかし、その深層には、脳の活動低下、咀嚼刺激の欠如などの、科学的に説明できる構造が存在するのです。 つまり、噛む力の回復は、脳を再び目覚めさせて、記憶を保ち、言葉をスムーズにつなぐための第一歩になるのです
そう考えると、トータルヘルスケアプログラム®︎は、脳へのリハビリ としての側面を持っています。物を粉砕する咀嚼機能の回復を通して、脳血流を刺激して、失われつつある記憶を再び活性化させて機能させる。これが、根本原因にアプローチする唯一の道筋だと考えています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
また、他のコラムで、今までの常識とは違った、全く新しい健康へのアプローチをご確認ください。
みなさんのお役に立てれば、幸いです。
統括院長 Dr.Ryo
コラムは、ウエスト歯科クリニック、と、玉川中央歯科クリニック、の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献(主要論文)
- Squire LR, Wixted JT. The cognitive neuroscience of human memory since HM. Brain. 2015;138(12):3197–3220.
- Ono Y, et al. Brain activity during chewing: An fMRI study. J Oral Rehabil. 2010;37(9):665–670.
- Hirano Y, et al. Chewing increases prefrontal cortex activation measured by near-infrared spectroscopy. Brain Res. 2013;1539:76–83.
- Yoshino F, et al. Loss of molar teeth impairs spatial memory and hippocampal neurogenesis in mice. Neurosci Lett. 2016;630:87–93.
- Kubo KY, et al. Chewing and brain function: Stimulation, relaxation, and cognition. Front Aging Neurosci. 2017;9:64.
- Tada S, et al. Tooth loss and tau accumulation: a PET imaging study. J Alzheimers Dis. 2021;79(3):1251–1260.
- Delwel S, et al. Chewing efficiency, occluding pairs and cognitive function in older adults. Front Aging Neurosci. 2020;12:225.
- National Institute on Aging (NIA). Subtle changes in speech are associated with early signs of Alzheimer’s disease. 2021.
- Alzheimer’s Association. Repetition and Alzheimer’s disease. 2022.




