人に合わないと、口臭が強くなる?
2026年7月24日
在宅勤務や高齢化社会の中で、孤独という言葉が注目をされています。
実は、孤独は口の健康にも深い影響を与えます。なぜなら、口臭は、心身の健康と社会性に直結するからです。
一見すると、人に会わないことと 口臭は関係がないように見えるかもしれません。ただ、会話の減少、唾液分泌の低下、心理的ストレス、自律神経や免疫の変化、口腔清掃習慣の低下などが重なることで、人に合わないと口臭が強くなる、という現象がでてきます。
口臭と唾液

口臭の多くは、口腔内の細菌によって作られる揮発性硫黄化合物(VSC)が原因です。その代表である硫化水素やメチルメルカプタンは、舌の上の舌苔や歯周ポケットに存在する嫌気性菌が、タンパク質を分解する過程で産生して、これが悪臭の原因となります。
唾液はこの口臭抑制に必要であり、唾液の洗浄作用によって細菌や代謝産物を除去して、抗菌成分例えば、リゾチーム、ラクトフェリン、免疫グロブリンA で細菌の増殖を抑えてくれるのです。そして、さらにムチンが粘膜や歯面を覆うことで細菌の付着を防ぐ効果があります。
つまり、唾液がたくさんでている状態であれば、口臭はある程度、軽減されるのです。
人と会わない生活と、唾液
人と会って会話したり、食事することは、唾液分泌を促す自然な刺激となります。
ということは、人と会わない生活は、会話、発声、咀嚼といった行為が減少することで、自然と唾液腺への刺激が少なくなるのです。
スウェーデン・ルンド大学の研究(Axelsson J, Biol Psychol, 2013)では、孤独感を強く感じる人は安静時の唾液の分泌量が少なくて、唾液中のストレスホルモンであるコルチゾールが高い傾向にあると示されています。
唾液が減少して、ストレスホルモンが増えるという条件が加わることで、口臭を悪化させやすくなるのです。
孤独と免疫機能

孤独や社会的隔離は、免疫系の働きも変化させます。ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの調査(Hackett RA, Brain Behav Immun, 2012)では、孤立した高齢者は炎症マーカーであるC反応性タンパク(CRP)が高値を示すことが明らかにされました。慢性炎症傾向は、口腔内の細菌バランスを乱して、歯周病菌が優勢になることで揮発性硫黄化合物であるVSCの産生量を増やしてしまうのです。
また、イリノイ大学の研究(Pressman SD, Health Psychol, 2005)では、社会的交流が豊富な人ほど唾液中にIgAの分泌が多いことが確認されています。IgAは粘膜免疫であり、その分泌が少ない人は、口腔細菌のコントロールが難しくなります。
行動変容と口腔ケア
人に会わないと、口臭に気がつかないとか、口臭への関心が低下します。例えば、人と会う予定がなければ 今日は歯磨きを簡単に済ませてもいいか、という心理が働きやすくなり、口腔ケアの質が下がる傾向がでてきます。
オーストラリア・シドニー大学の研究(Chrisopoulos S, Community Dent Health, 2014)では、社会的に孤立した高齢者は歯磨きの頻度が低くて、口腔内の不快感や口臭の訴えが多いことが示されています。
つまり、人との交流が少ないと、口腔ケアの意識の低下から口臭の悪化を招くと考えられます。
ストレスと口臭

孤独は心理的ストレスを強めて、口臭を悪化させることもあります。ストレスは交感神経を優位にして、唾液腺の働きを抑制します。そのため粘稠性の高いネバネバした唾液が増えて、唾液による洗浄作用が弱まるのです。
韓国・延世大学の研究(Kim JS, J Periodontol, 2010)では、ストレスが強い被験者ほど口臭の自己評価スコアが高く、実際にVSC濃度も有意に上昇していることが報告されています。孤独が慢性的ストレスをもたらすので、口臭の悪化は避けられないのです。
高齢者施設において
実際の臨床現場から、社会的孤立と口臭の関係が注目されています。カナダ・トロント大学の調査(Locker D, Gerodontology, 2009)では、社会的孤立度の高い高齢者は口臭が気になる、と答える割合が有意に高かったと報告されています。
また、2020年の日本の地域包括ケア研究(厚労科研)では、地域活動に参加している高齢者は、孤立している高齢者よりも口腔乾燥や口臭の自覚が少ない傾向が報告されています。人との交流が唾液分泌や口腔ケア習慣を間接的に促していると推測されます。
まとめ として

人に合わないと口臭が強くなる、という表現は、科学的に裏づけられています。
会話や咀嚼が減少して唾液が減ると、孤独ストレスが交感神経を優位にし、唾液の質を変えるのです。そして、免疫バランスが乱れて細菌が優勢になり、口腔ケア意識が低下して清掃不足に陥るのです。
最後に、人と会うことは社交の場という位置付けだけでなく、唾液分泌や免疫の維持、そして口臭予防にまでつながる健康へのスイッチであると考えられます。孤独を避け、社会的交流を保つことは、心身の健康と同時に口臭の抑制にもつながっていくのです。
コラムは ウエスト歯科クリニック と 玉川中央歯科クリニック で、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。
参考文献
- Axelsson J, et al. Social isolation, saliva cortisol and oral health. Biol Psychol. 2013.
- Hackett RA, et al. Loneliness and stress-related inflammatory and neuroendocrine responses in older adults. Brain Behav Immun. 2012.
- Pressman SD, et al. Loneliness, social network size, and immune function in healthy adults. Health Psychol. 2005.
- Chrisopoulos S, et al. Social isolation, oral health behaviors and perceived oral health in older Australians. Community Dent Health. 2014.
- Kim JS, et al. Stress and halitosis: a clinical study on volatile sulfur compounds. J Periodontol. 2010.
- Locker D, et al. Social isolation and self-perceived oral health in older adults. Gerodontology. 2009.
- 厚生労働科学研究班. 「地域高齢者における社会的孤立と口腔健康」報告書. 厚労科研, 2020.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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