虫歯になりやすい職業ランキングとは?
2026年7月7日
虫歯(う蝕)は世界で最も多い感染性疾患のひとつとされています。
世界保健機関(WHO)の報告によれば、成人の約90%以上が何らかのう蝕経験を持ち、治療済み、未治療を含めれば、人類のほとんど全員が一度はかかっている病気となります。
しかし、意外に知られていないのは、職業によって虫歯のなりやすさに大きな差があるという事実です。
虫歯は単に甘いものを食べすぎた結果ではなく、どんな環境で、どんな時間に、どんなリズムで口を使うか、という日常の積み重ねによって生まれるのです。
つまり、職場環境や働き方そのものが、口の中のリスク構造を形づくっているのです。
ここからは、国内外の研究をもとに、虫歯になりやすい職業をランキング形式で紹介し、それぞれの仕事に潜むう蝕リスクのメカニズムを解き明かしていきます。
第1位:味見をする料理人・パティシエ

最もリスクが高いのは、意外にも食をつくるプロフェッショナルたちです。
料理人やパティシエは、一日に何十回も味見を繰り返すことを仕事としています。
ソース、ドレッシング、デザート、スープなどなど。
その一口ごとに口の中のpHは急激に酸性へと傾くのです。
唾液が中和する前に次の味見を行うため、エナメル質が修復(再石灰化)する時間がなく、常に酸性状態が続きます。
日本の研究(Matsuda et al., J Dent Health, 2019)では、料理専門学校の学生のう蝕有病率が他学科に比べて有意に高いことが示されています。
また、イタリアとフランスの料理人・パティシエを対象にした調査(Benedetti et al., Clin Oral Investig, 2021)では、一般職に比べて約1.8倍も虫歯リスクが高かったと発表されました。
特に糖質を多く扱うパティシエでは、酸蝕症とう蝕の併発が多く見られる傾向にあります。
厨房は高温多湿で脱水しやすく、唾液分泌量も低下するため、酸の中和が追いつかないのです。
さらに長時間労働、不規則な食事、休憩不足も重なり、口腔環境の回復を妨げます。
一方で、意識の高い料理人ほど、味見のあとに水で口をすすぐ、無糖ガムで唾液を促す、などの独自のセルフケア習慣を持っているという報告もあります(Ibrahim et al., Int J Dent Hyg, 2020)。
第2位:製菓・製糖工場などに勤務の方

製糖・製菓の現場では、空気中に漂う微細な砂糖粉じんであるシュガーダストに常時さらされいます。
これが歯面に付着して、まるで糖の膜に覆われたような状態が一日中続くのです。
インド南部の製糖工場労働者を調査した研究(Shah et al., Indian J Occup Environ Med, 2017)では、一般住民よりもDMFT指数(う蝕経験歯数)が明らかに高く、糖の粉じんが独立した虫歯リスク要因であることが示されています。
2015年のWHOの「自由糖」に関するガイドラインでも、糖がう蝕の一次的な原因であることが再確認されています。
つまり、こうした職場で働くこと自体が、砂糖を摂取しているのと同じリスクをもたらすといえなくもありません。
第3位:夜勤・交代勤務者(看護師・介護士・工場勤務など)

夜勤や交代制勤務では、体内時計の乱れが唾液のリズムを狂わせるのです。
唾液の分泌量は昼間に比べて夜間はおよそ1/4に減少するとされ(Ten Cate, Caries Res, 2015)、虫歯の自然防御機能が大幅に低下しています。
日本の看護師を対象にした研究(Tani et al., J Occup Health, 2018)では、夜勤中の間食後に歯を磨くかどうかが、虫歯経験に強く関連していたとされています。
つまり、夜勤による生活リズムの乱れとケアの空白時間が、う蝕リスクを押し上げているということになります。
海外でも、夜勤を含む交代勤務者では歯の喪失率や虫歯進行リスクが高い、という報告が相次いでされています。
第4位:外勤営業・販売職

営業や販売職は、出先での飲食・会食が多く、歯みがきのタイミングが取りにくいのか難点です。
缶コーヒーやエナジードリンクなど糖分を含む飲料を少しずつ長く飲む習慣が、口腔内を長時間酸性に保つことから、再石灰化のチャンスを奪うのです。
厚生労働省の職域データ(2017)によると、男性営業職は他業種より未処置う蝕の割合が高く、残業時間や飲酒頻度とも関連していたとされています。
虫歯の背景には、食事内容よりも摂取のタイミングとケア習慣の欠如が強く影響しているのです。
第5位:長距離ドライバー・配送業

プロドライバーは、長時間同じ姿勢で働き、休憩不足や糖分入り飲料の常飲など、口腔にとって不利な条件が重なります。
トイレを避けるために水分を控え、疲労回復のために砂糖入り飲料で喉を潤す、この行動が、慢性的な口腔乾燥と細菌増殖を引き起こすのです。
日本の比較研究(Nakayama et al., Industrial Health, 2016)では、ドライバーは事務職に比べて歯の喪失率が高く、口腔乾燥と生活習慣の乱れが大きく関与していたことが示されました。
この要因は歯周病だけでなく、虫歯にも同様に当てはまります。
第6位:酸性環境下の製造・醸造業

酸を扱う工場やワイナリー、清掃業などでは、酸性ミストや蒸気への曝露も問題となります。
基本的には、酸蝕症のリスクを高めるのですが、エナメル質が薄くなることで二次的に虫歯が進行しやすくなるのです。
日本の醸造工場労働者を対象とした研究(Yoshida et al., J Oral Sci, 2018)では、酸性ガス曝露とエナメル損耗との関連が明確に示されています。
このような口腔防御が失われた状態では、わずかな糖摂取でも急速に脱灰が進むため、この職業的リスクは見過ごせないものになります。
第7位:高ストレス・長時間労働のホワイトカラー

IT技術者、管理職、医療従事者など、精神的負荷の高いホワイトカラー層も、虫歯リスクの高い傾向にあります。
ストレスが強いと、無意識の食いしばりや甘味嗜好、ケア意欲の低下が重なり、口腔内環境が悪化するのです。
BMJ Open(2019)に掲載されたレビューでは、仕事のストレスとう蝕・歯周病・歯の喪失との関連が明確に示されています
日本の調査でも、長時間労働が続く従業員ほど歯科受診が遅れて、未処置う蝕が多い傾向がある、と示されており、
特に、疲れて寝落ち、就寝前の歯みがき忘れといった行動が慢性化すると、虫歯の進行速度は驚くほど早くなるのです
まとめ
このランキングは、あくまでリスクの高さを示すものであり、決して、職業そのものが悪いと言っているわけではありません。
実際、日本の職域介入研究(Okada et al., J Occup Health, 2020)では、定期健診と歯科保健指導を組み合わせることで、未処置う蝕率を有意に減らせたことが報告されている。
つまり、予防の鍵は、日常の小さな工夫にこそあるのです。
味見や試食をしたら水で軽くすすぐ、無糖ガムで唾液分泌を促す、夜勤中は糖の入らない飲料を選ぶ、会食後や出先では洗口液を携帯する、職場に歯みがきコーナーを設けるとかでしょうか。
WHO(2015)も糖の摂取量より摂取頻度の管理が重要と強調していますから、環境を少し整えるだけで、虫歯は確実に減らせると理解しておいてください。
コラムは ウエスト歯科クリニック と 玉川中央歯科クリニック で、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。
参考文献
- Yoshida, M. et al. (2018). Journal of Oral Science, 60(4), 529–536.
- Ten Cate, J. M. (2015). Caries Research, 49(Suppl 1), 7–13.
- Matsuda, R. et al. (2019). Journal of Dental Health, 69(2), 87–94.
- Benedetti, A. et al. (2021). Clinical Oral Investigations, 25(9), 5291–5300.
- Ibrahim, A. M. et al. (2020). International Journal of Dental Hygiene, 18(4), 409–416.
- Shah, K. et al. (2017). Indian Journal of Occupational and Environmental Medicine, 21(3), 134–139.
- Tani, M. et al. (2018). Journal of Occupational Health, 60(5), 411–418.
- Nakayama, K. et al. (2016). Industrial Health, 54(6), 519–526.
- Okada, M. et al. (2020). Journal of Occupational Health, 62(1), e12137.
- WHO. (2015). Guideline: Sugars intake for adults and children.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
▶︎Dr. RyoのYouTubeはこちら
▶︎Dr. Ryoのプロフィール




